終末の音

僕と、山田と、僕の妹サチは、いつも3人で彼等と同じ藍染の服を着て“仕事”をしていた。

といっても、僕等は彼等の言葉を話すことができなかったのだから、

服装なんていう小細工はまったく役に立たない保険だった。

幸いなのは僕等と彼等が同じ肌の色で同じような顔つき体つきをしていることだけだった。

 

僕等は彼等の作業場で“仕事”をしていた。

工廠の情報を得て持ち帰り、それを母が味方軍に送る。

一家そろっての諜報活動。

これが僕等の仕事だ。

姉は母を助け、家事をした。

父は、よくは知らないがもっと危険な仕事をしているようだった。

山田の家も似たような状況だっただろう。

 

その日。

僕等は運悪く彼等に見つかった。

僕等は逃げた。

記憶は薄暗い光の中にある。

きっと黄昏時だったのだろう。

僕等は彼等に追われて逃げた。

途中まで3人一緒だったが、分かれ道でサチと別れた。

少し行ってから、畑をつっきる舗装されていない広い道で、

僕はとっさに畑に降りて畝のような盛り土の陰にかくれた。

これは一つの賭けだった。

僕は山田がとんでもない奇声を上げながら道を駆け抜けていくのをひらめのような気分で見送った。

子どものかくれんぼのような隠れ方だったにも関わらず、追っ手は僕の横を通り過ぎていった。

しばらくは僕は同じ場所に同じ姿勢でじっとしていた。

時々毒虫が腕を這うような心地がしてそのたびに払った。

僕の耳に、幻のサチの歌声が聞こえてきた。

嘔気すら感じた。

僕は耳も払った。

 

本当に暗くなってから、僕はやっと動き出した。

帰ろう。

その時道を布張りのトラックが走ってくるのが見えて慌てて頭を地にこすり付けた。

トラック―

山田が前に言っていた。

あの中に日本人が詰め込まれていて、郊外の埋立地に棄てられると。

それを、彼等はゴミ収集車と呼ぶのだそうだ。

僕は十分にトラックが過ぎるのを待って立ち上がり、

服についた水分の多い土を叩き落すと、

震える脚をわざと堂々と大またに、そして家に向かった。

 

家といっても、僕等日本人が細々と身をよせて住む隠れ家のような宿舎だ。

サチも山田もいなかったが、誰も何も問わなかった。

僕は母に今日得た情報を伝えた。

僕は遅い夕飯を食べて眠りについた。

きっとサチと山田は死んだだろう。

でも

何の感傷も沸き起こらない僕の心はどうしたものだろう。

 

それ以来僕は父と活動することになった。

父は彼等の懐にまで入って活動していた。

僕と父が組むようになって、そう長くは経たないうちに、

僕と父の周りに彼等の影がちらつくようになってきた。

彼等は射殺すような目で僕等を見ている。

さっきも。

いまも。

これからも。

 

気がつくと僕等の宿舎の周りにも彼等が現れるようになった。

もう終わりだと思った。

母はいつでもにこにこして陽気だった。

たぶんもうずっと前に狂っていたんだろう。

姉は父よりも無口だった。

父は無精ひげをはやして落ち窪んだ目で僕を見つめた。

 

早く終われば良いと思った。

どんな終末でも構いやしない。

とにかく終わりが来て欲しいと思った。

 

ついに宿舎に彼等がきた。

彼等の足音が2階に上ってくるのが聞こえた。

胸躍る終末の音だ。

ああなんて心地よいのだろう!!

僕はその時

たぶん

人生でいちばん幸せなひとときを過ごした。

 

っていう夢をこの前見た。(実話)

小説じゃないじゃん。