2016年12月10日(土)@トッパンホール
セルゲイ・カスプロフ氏 ピアノ・リサイタルに行った記録

掲題の通り、コンサートに行ってきたよ。
書いていたら長くなったので単独でページを作ったよ。

[行くまでの経緯]
ピアノ・リサイタルに行くのは2008年以来の実に8年ぶり。
以前にもちらと書いたが、2006年、あるピアノ・リサイタルに行った時に
会場で同級生の訃報を聞いたのがショックでしばらくコンサートに行けなくなった。
なんとか立ち直ろうとして2008年にピアノ・リサイタルに行ったはいいが
あまり楽しくない演奏会だったため、コンサートというもの自体が嫌になってしまっていた。

今年のラ・フォル・ジュルネでオーケストラと室内楽を聴きに行き
とても良い時間を過ごすことができたので、
「もういいだろう。次はピアノ・リサイタルに行こう。」と決意し、
5月はじめにこの演奏会のチケットを買ったのであった。
春の自分から贈られたクリスマスプレゼントである。

トッパンホールは初めて行くホール。
地図を頭に入れていざ出発。
曇り。寒い。

[開演前]
13:30開場、14:00開演。
リハーサル後の微調整をする調律師さんの姿を見たい…
という考えから、開場と同時にホールに駆け込む。
調律師さんは低音を直している最中だった。
案の定ピアノはスタインウェイなのであるが…音色が予想外だった。
かなり柔らかくて甘い音色。スタインウェイってもっと輪郭のある音なのかと思っていた。
もしかして結構若い子なのかな?詳しくないから全然わからんけど…
音のイメージから、そのピアノを「水色スタインウェイくん」と呼ぶことにした。
最低音域の倍音がかなり飛んでくる。あんなに鳴ると、ペダリングとか難しそうだなあ。
などと考えていると作業は中〜次高音域に移動し、微調整後オクターブの確認をして終わる。
最後に調律師さんは客席側のリムをキュッキュと磨くと去って行った。

そこから開演までは水色スタインウェイくんの下半身を凝視して過ごした。
何を隠そう、わたしはグランドピアノの下半身が大好きなのだ。
なかなか拝めないので目に焼き付けておいた。

[前半]
いよいよ開演。拍手の中カスプロフ氏が登場する。
上背があり、ひょろりと長い四肢。いかにもロシア人という容貌と髪型。
柔らかそうな生地の紺色の詰襟を着ている。空いた襟から白いシャツがのぞく。
上着と同じ生地のちょっとだぼついたズボン――
ズボンが太いのではなく、中身のカスプロフ氏が細いのかもしれない。
足元はごく普通の革靴といういでたち。
氏はピアノの低音側でひょこっとおじぎをすると椅子に腰を掛ける。
椅子が低くてピアノからかなり遠い。あの体格だとあんな場所でいいのか…
座った後、しばし上着の裾や袖口をつまんだりひっぱったりして…
いざ、音楽が始まる。

前半の曲目。
・J.S.バッハ/ブゾーニ編 シャコンヌ ニ短調
・ラフマニノフ コレルリの主題による変奏曲 Op.42

フォルテの音量が凄まじかった。ひょえー!!
前髪が音にふっとばされて靡いているんじゃないかと錯覚してしまうほどだった。
かと思えば、思い出の古写真のようなくすんだ音も出てくる。
あらゆる技術が自由自在といった印象。
ハーモニーの捉え方が斬新に感じた。
シャコンヌでアドリブのようなものがあった気がするが
予習が不十分だったので不明。もっと予習するべきだった。

ただただ圧倒的だったが、たまにハーモニーが溶ける時があった。
ずっとペダリングを見ていたけど、ベタ踏みしているわけでもなさそうなのに
妙に音が滲んで何が起きているのか分からなくなった。
もしかしたら水色スタインウェイくんが溶かしちゃったのかも?
聴いてる座席の位置のせいかなあ。なんだろうなあ。
と考えていたら、いつのまにか2曲とも終わっていた。

[休憩]
離席しようとしたら調律師さんが現れたので、席を離れず作業を見ることにした。
開演前に直していた音域を再び調整していた。
カスプロフ氏は相当打鍵が強そうだったしなあ。
ステージにはマイクが立っていたから、ライブCDが出るのかな。
念のための調整なのだろうか?
すぐに終わったが、離席する気が失せたので
再び水色スタインウェイくんの下半身を見て過ごした。

[後半]
後半の曲目。
・R.シューマン アラベスケ ハ長調 Op.18
・ドビュッシー 映像 第1集
・プロコフィエフ ピアノ・ソナタ 第7番 変ロ長調 Op.83「戦争」

再びステージに登場したカスプロフ氏。
すぅ〜っと出てくるとおじぎもそこそこ、唐突に演奏を始める。
途端、ホールの空気が一気に変わって驚愕した。前半と全然違う。嘘みたいだ。
アラベスケの平和で虚ろな雰囲気と水色スタインウェイくんの相性もばっちり。
すごくいい流れで次の映像も自然に始まる。自然で自由。何の不安も感じない。
空気が十分にあたたまってきたところで怒涛のプロコフィエフ。
これが実に良かった。本当に良かった。
プロコフィエフが苦手で、まったくといっていいほど予習をしなかったが
この演奏を聴いていたら納得した。全然退屈じゃなかった。
ラストの爆音超連打といったら!!ホールの熱も最高潮だった。

[アンコール]
アンコールの曲目。
・スカルラッティ ソナタ ニ短調 K.213
・ヴィラ・ロボス 赤ちゃんの一族 第1組曲「お人形たち」7.道化人形

拍手に応えて再びピアノの前に座ったカスプロフ氏は
「スカルラッティ!!」とだけ言ってアンコール曲を弾き始めた。
スカルラッティは興味がなく、今までろくに聴いたことがなかったが…
こんな素敵な曲があったのか!!全く古さを感じない。
しかもとてつもない美音で奏でてくれるので、これはもうたまらん。
どうやったらあんな美しい音が鳴るんだろう。

鳴り止まぬ拍手に再びすぅ〜っと現れた氏は、さっと座るとさっと弾き始める。
今度は作曲家の名前も言わず、凄まじい不協和音を超高速連打。
正直どうかしちゃったのかと思ったら、そういう曲だった。
盛り上がったコンサートのしめくくりにふさわしい、派手で技巧的で愉快な曲だった。

[閉演後]
いい演奏会だった…また聴きたいな…来年も来てくれるかな…
なんて思いつつ、プログラムと共に渡された大量の演奏会のチラシを見たら…

!?

明日もあるの!?
行きたい…まだチケットはあるだろうか。
今日の公演は後ろの方に若干空席があったはず。
東京公演で残席があるなら、地方公演はもう少し席が余っているのでは?
明日の朝に問い合わせてみよう…今日は早く寝よう…

…ん!?

1つだけ曲目が違う!!
全然知らない曲だったので慌てて予習をする。

 

明日の公演に続く…

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