10日に引き続き、アファナシエフ氏のピアノ・リサイタルに行ったよ。
[開演前]
しとしとと雨の降る寒い日だった。
紀尾井ホールは初めて行くホール。
開場15分前に行ったらエントランスに人がぎゅうぎゅう詰めになっていた。
まるで満員電車みたいだ。
13:30開場。
狭い入口に向かって、集まっていた人々の塊が押し寄せ
砂時計の砂のようにチリチリと少しずつ入場していく。
白を基調としたロビーは広くてとても洒落ている。
ホールに入る。ホールは木目で統一されている。
上を見上げると、シャンデリアが6つも吊り下がっている。
シューボックス型で、残響がかなり強い。
調律師さんがちょっと調整をしていたがすぐに去って行った。
今日のピアノはベーゼンドルファー。
10日もベーゼンだったが、全然違う。
ずいぶんキャラが濃い。濃すぎて形容できない。
今日のピアノは「コスギ・ベーゼンくん」と呼ぶ。
さて、いつものように開演までピアノの下半身を眺めようと見遣ったら
おしりの方(客席から見て右側)の脚のキャスターの向きがいつもと違った。
今まで見てきたコンサートでは右側を向いていたが、今日のは客席側を向いていた。
何か意味があるのか、搬入や位置決めの時にたまたまそうなってしまったのか。
そもそも、コンサートのピアノのキャスターが外向きにしてあるのは
見た目の問題なのか、音響上の問題なのか。
いつもは開演前にプログラムを見ないが
なんとなく覗いてみたところ、文字が非常に小さかった。
昔の文庫本みたいだ。
聴衆の平均年齢が高めのように思えたが
こんな老眼バスターなフォントで大丈夫なんだろうか。
わたしが聞き逃したのでなければ、開演前にベルは鳴らずアナウンスだけだった。
補聴器の設定にまで言及したアナウンスは初めて聞いた。
[前半]
前半の曲目。
・ベートーヴェン ピアノ・ソナタ
第7番 ニ長調 Op.10-3
第17番 ニ短調 Op.31-2「テンペスト」
開演時間になると、客席のみならず舞台照明もぐっと暗くなる。
袖の扉が開いてアファナシエフ氏が登場すると舞台上がフワっと明るくなる。
いでたちは10日と同じに見える。
氏がピアノの前に座ると再び照明が暗くなる。
曲目がベートーヴェンだからか
10日よりもやや引き締まった空気を感じる。
音が自然に消えていくのを待つかのような間。
ピアノでこんなレガートが表現できるのかというほどなめらかな下降音。
空間に少しずつ色を滲ませていくようなハーモニー。
水をたっぷり含ませた筆で点々と水彩画を描いているようだ。
ベートーヴェンのソナタだし、
構造がどうのこうのというアプローチもあるのだろうが
そんなことはどうでもよくなってしまった。
一瞬一瞬、どこを切り取っても、ただひたすらに美しかった。
この音楽家が死んだら、この美しい空間は地上から永遠に失われるのだろうと思うと
どうしようにもなく悲しい気持ちになった。
[休憩]
前半の演奏があまりにも素晴らしかったので帰ろうか迷った。
テンペストをそのまま家に持ち帰りたかった。
しかし、前半だけで帰れるほどコンサート慣れしていないので居残ることにした。
[後半]
後半の曲目。
・ショパン ノクターン
変ロ短調 Op.9の1
嬰ヘ長調 Op.15の2
嬰ハ短調 Op.27の1
変ニ長調 Op.27の2
ロ長調 Op.32の1
ホ短調 Op.72-1(遺作)
やはり前半で帰るべきだった。
放心してしまい、ろくに聴かなかった。
コントラストがはっきりした演奏だった。
コスギ・ベーゼンくんはシフトペダルを踏むとかなり音色が変わるようだ。
[アンコール]
アンコールの曲目。
・ショパン マズルカ
Op.67-4 イ短調
Op.68-2 イ短調
[閉演後]
帰ってそのまま寝た。
よかった生きていて…
まだ生きていてよかったぁ…!