2018年8月9日(木)@ミューザ川崎シンフォニーホール
フェスタサマーミューザ川崎2018
日本フィルハーモニー交響楽団
音の風景〜北欧・ロシア巡り〜 に行った記録

[会場へ]
台風が去った翌日、暑さが戻ってよく晴れた日だった。
今回の演奏会は、公開リハーサルをやっているということで昼下がりに家を出る。
ミューザ川崎に来るのは12年ぶりの2回目。
2006年5月6日、お茶の水管弦楽団のシベリウス2番を聴いた。
今回も後半のプログラムがシベリウス。妙な縁を感じる。

会場に着くとリハーサル開始直前だった。慌てて客席に滑り込む。
席に着き、ステージに置かれたピアノを目にして驚く。
現代ピアノではない。
やや華奢な脚、そしてちんまりとしたキャスター。
傷だらけでメーカーロゴのないリム。
もしかして、タカギクラヴィアさんのところのCD75さんでは……?
おそらく間違っていないだろう。
何を隠そう、わたしがグランドピアノの下半身に興味を持つようになったのは
2016年のラ・フォル・ジュルネでCD75さんに会ったのがきっかけなのだ。
期せずしてCD75さんにまた会えた喜びに胸を躍らせる。

[公開リハーサル]
15:30、公開リハーサルが始まる。
ステージのみなさんは私服。ほどよい緊張感。
ほとんど通しで、たまに止めて気になる点をチェックといった感じだった。
学生時代にちょっとだけオケ部に所属していたので(Vn2)
当時のことを思い出し、なんだか懐かしい気持ちになる。

曲目はラフマニノフのピアノ協奏曲第5番とシベリウスの交響曲1番。
今日は敢えてまったく予習をしてこなかった。
最近、音楽のことを考えすぎて些か疲れているので
何も考えずに、楽器の出す空気振動にただ触れていたい気分だったのだ。
2時間弱、ぼーっと座りながら目の前で奏でられる音楽に身を任せた。

[開演前]
17:30に公開リハーサルが終わる。腹ごしらえのために外に出る。
かなり湿気はあるが、風が吹いていて、昼間と比べるとだいぶ過ごしやすい。
適当に軽い食事を済ませて時間をつぶし、開場の時間にまたホールへ戻る。

前回のコンサートでは座席チョイスが微妙で、チケットを買った過去の自分に失望したが
今回はとてもいい席を選んでいた。
CD75さんの開いた大屋根の延長線上あたり。これはよく音が聞こえるぞ。
開演まで、いつものごとく湿った眼差しでピアノの下半身を眺めていたのだが
ひょんなことから隣席の女性と会話が始まり、演奏会やホールの話などを楽しんだ。

[前半]
ミューザ川崎のベルはたくさんの鐘の音。
拍手の中、日本フィルの楽員の人たちがステージに出てくる。
ステージ衣装に身を包んでいると雰囲気が全然違う。
それから指揮の藤岡幸夫氏、ソリストの反田恭平氏が出てくる。
少し間を開けて、譜めくりの人もVn1とVn2の間を通って慎ましやかに登場。
さあ、本番の始まりだ。

前半の曲目。
・ラフマニノフ(ヴァレンベルグ編) ピアノ協奏曲第5番 ホ短調 ※日本初演
  第1楽章 ラルゴ - アレグロ・モデラート
  第2楽章 アダージョ - モルト・アレグロ
  第3楽章 アレグロ・ビバーチェ

今日はこれを聴きに来た。
「ラフマニノフの協奏曲5番!?!?何それ!?!?」と思って飛びついてチケットを買った。
有名な交響曲第2番をアレクサンダー・ヴァレンベルグという人が協奏曲に編曲したそうだ。
大胆にも、3楽章と2楽章を合体させて2楽章とし、
全体的にいろいろカットしたようでコンパクトにまとまっていた。
カデンツァも書き加えられていた。
ラフマニノフらしさも残りつつ、ヴァレンベルグ氏のカラーも感じられた。

ソリストの反田氏の演奏を聴くのは2回目。2017年1月の演奏会以来。
あの演奏を聴いたときに「もっと聴いてみたい」とずっと思っていたのだが
大人気のピアニストらしく、発売日でも全然チケットが取れず半ば諦めていた。
今回はたまたまチケットを買えたのでよかった(今日のチケットも完売したらしい)
凄まじい技術。まさにヴィルトゥオーゾといった感じだ。
音色に幅があって、それがどれも美しい。
CD75さんとの相性もピッタリ。お互い楽しそう。

日本フィルは初めて聴いた。
真面目で端正な印象の音色。そしてパワフル。
ところどころパワフルすぎてピアノがかき消されてしまっている部分もあり、少し残念に感じた。
3楽章の最後の方はもうちょっとピアノが聞こえてほしかったな。
もしかしたら、これは「ロマン派以降のピアノ協奏曲あるある」なのだろうか。
だいぶ前にラフマニノフの協奏曲2番を聴いた時も
オケが強すぎてたまにピアノが聞こえないという経験をした。
まあ、ソロとは言っても、音楽の塊の中に取り込まれるシーンもあるということなのかもしれない。

ともあれ、とても素晴らしい演奏だった。
あの空間に、あの瞬間、存在できたことは幸せだった。
鳴りやまない拍手の嵐。春節の爆竹みたいだ。
反田氏は4回程ステージに引き戻されたが
最後にはCD75さんの鍵盤蓋を閉めてしまった。
きっと今日の演奏に納得したに違いない。
そういう時にアンコールを演奏するのは蛇足だろう。

[休憩]
離席して用を足すと、いつもはすぐに席に戻るが今日はフラフラ会場を徘徊した。
ロビーには妙にたくさんの人がいて不思議に思ったが
携帯端末をいじるために出てきているようだった。(ホール内部は圏外)
行き交う人々の会話に耳を傾けてみると、どうやら反田氏のファンの方が多いようだった。
CD売り場では先ほどの演目の定盤が販売されていた。
そうこうしているうちに後半開始のアナウンスが流れたので席に戻る。

[後半]
後半の曲目。
・シベリウス 交響曲第1番 ホ短調 作品39

この曲はCD等も全く聞いたことがなく、先述の通り予習もしなかったので
本当にただ椅子に座っているだけで終わってしまった。
かなりパワーのある演奏だった。
先ほどの協奏曲は結構出力を抑えてくれていたのだとわかった。
ぼーっとオーケストラの音を聞いているとFgの音に心惹かれるので
わたしはFgが好きなのかもしれない。

[アンコール]
アンコールの曲目。
・エルガー 「夕べの歌」

指揮の藤岡氏が「エルガーの有名な歌をやります」と言ってアンコールが始まった。
と思ったが、どうやらわたしの聞き間違いで「夕べの歌をやります」と言っていたようだ。
演奏会の終わりにピッタリの曲だった。

[閉演後]
いい演奏会だった……
だが、いい演奏会を最大限に楽しむためには、やはり予習が必要だなと認識した。
もう人生の10割を音楽に使ってしまえばいいんじゃないかな。
最近そんな気がしている。

 

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