2019年2月23日(土)@トッパンホール
セルゲイ・カスプロフ ピアノ・リサイタルに行った記録

[開演前]
とてもいい天気で春めいた午後だった。
暖かくていい陽気だが、凄まじい風!
髪やら襟巻やらコートの裾やらを
風にもみくちゃにされつつトッパンホールに向かう。

トッパンホールに来るのは2016年以来の2回目。
前回も同じくカスプロフ氏のリサイタルだった。
カスプロフ氏の演奏会はこれで4回目。
氏の音を聞くのは2017年以来なのでとても久しぶりである。
CDは2枚持っているし、YouTube等でも聴くことができるが
なによりもライブの音が素晴らしい演奏家なので、この日を心待ちにしていた。

14:30開場、15:00開演。
すっとんでホールに入るが、本日は調律師さんはおらず、残念。
今日のピアノはスタインウェイ。
おしり側のキャスターがやや客席側を向いていた。
ステージに出てから、位置決めで少し後ろに下がったのかな。
トッパンホールのスタインウェイというと、
前回、2016年に会った「水色スタインウェイくん」だろうか…?
すこし不透明な明るい水色の音で、打鍵速度が速いとコンバスのような音になる。
倍音が強烈で、訓練されていないわたしの耳にも飛び込んでくる。
あの日感じたものと同じ印象を受けたので、きっと同じピアノな気がする。
今日のピアノも「水色スタインウェイくん」ということにしておこう。

年末からの体調不良もあって、今日はまったく予習をしてこなかった。
カスプロフ氏は説得力があるというか、わかりやすく演奏してくれるので
氏のいざないに身をゆだねれば何とかなるだろうという期待もあった。
彼の解釈をわたしは信頼している。
とりあえず、開演までプログラムノートに目を通しておく。
…ほほう、カスプロフ氏はネイガウスの系譜を継ぐ者らしい。
道中、ネイガウスの著作を読みながら来たのですごい偶然だ。

開演までの残りの時間は、水色スタインウェイくんの下半身を眺めて過ごした。
トッパンホールのベルは子守唄のようなオルゴールの曲。

[前半]
開演。拍手の中カスプロフ氏がのそのそと登場する。
ピアノの奥側で、初めて発表会に出た少年のような、ややぎこちないおじぎをする。
相当場数を踏んでいるはずなのに、おじぎが洗練されていないのがちょっと面白い。
照れ屋なのだろうか。演奏が素晴らしいので、余計にギャップがある。
以前見た時より、かなり髪が伸びている。
それ以外はいつもと同じいでたちのように思えた。
座ると、ちょっと椅子の位置を調整したり
袖をつまんだり、上着の裾を引っ張ったり、髪を撫でつけたり…
この、演奏直前の「奏者のおまじないのような挙動」を見るのが何気に好きである。
一連の動作が終わると、ついに音楽が始まる。

前半の曲目。
・J-B.レイエ:ハープシコードまたはスピネットのためのレッスンIより〈アルマンド〉〈クーラント〉〈ジーグ〉
・J-B.レイエ(ゴドフスキー編):ルネサンス第2集より〈サラバンド〉〈ジーグ〉
・ラヴェル:夜のガスパール

今日はレイエの楽曲を楽しみにしていた。
期待通り、期待以上の演奏であった。
実に軽やかで、音色も自由自在で、声部をわかりやすく扱ってくれる。
ジーグは自分が思っていたより、ややテンポがゆるやかだった。
ジーグって速いものかとおもっていたが、このくらいでよいのか。

正直レイエで満足してしまい、ラヴェルは弛緩した態度で聞き流してしまった。
今日はかなり後ろの席だったのだが、前髪がふっとぶような轟音は相変わらずですごいと思った。
音量の幅も音色の幅も本当に広い。

[休憩]
調律師さんが出てきて、中音部〜高音を結構直していく。
やっぱり高音がずれるのかなあ。
作業が終わると、水色のクロスで鍵盤と口棒をふきふきすると去っていった。

[後半]
後半の曲目。
・ムソルグスキー(ファインベルク編):歌曲集《死の歌と踊り》より〈セレナード〉
・ムソルグスキー(フドレイ編):交響詩《禿山の一夜》
・ムソルグスキー:組曲《展覧会の絵》

後半は有名な曲なのでドロップすることなく聴くことができた。
《展覧会の絵》の第4プロムナードで、今まで聴いたことがないような音が鳴って度肝を抜かれた。
一体何なんだあれは。シフトペダルを踏んでいたが、それだけであんな音が鳴るだろうか?
水色スタインウェイくんの持つ音なのか、何かタッチによる効果なのか。
以前から音色の幅の広い演奏家だなあと思っていたが、今回、更に幅が広がっているように思った。

[アンコール]
アンコールの曲目。
・ショパン:マズルカ第13番 イ短調 Op.17-4
・ヴィラ=ロボス:赤ちゃんの一族 第1組曲「お人形たち」より 道化人形

ああ、いいですね。
内心スカルラッティを期待していたが、これもよかった。
道化人形は持ちネタなんでしょうね。
いつものごとく、工業用ミシン並みの連打!

[閉演後]
いやあ、いい演奏会だった。
カスプロフ氏は、間違いなく、並々ならぬ技術を持っているのだが
これまでに行った3回の演奏会は妙にヒヤヒヤさせられることがあった。
今日は安定感があったし、新しい音を聴くことが出来た。
本当にライブが魅力的な演奏家だ。次も行きたい。

 

独り言のページに戻る
演奏会の記録に戻る