10月9日に引き続き、憧れの王子様ヴァレリー・アファナシエフのピアノ・リサイタルに行ったよ。
[開演前]
空を見ているだけで気が滅入りそうな重苦しい曇天の日だった。
まだ昼下がりだというのに、薄暗くどんよりとしている。
やっと夏を忘れさせてくれる涼しさを感じながらさいたま芸術劇場へ向かう。
初めて行くホールだ。
最寄り駅を出ると、要所要所に看板が立っていたので迷うことなくたどり着いた。
外観が、以前行った神奈川のリリスホールになんとなく似ている。
開場の10分ほど前にホール入口に到着する。まだあまり人がいない。
東京のホールとは大分空気が違う。この感じもリリスホールに似ている。
14:30開場、すぐさまホールへ。シューボックス型だ。浜離宮とかに似てるかも。
席に着くと、ステージ上のピアノの下半身を眺めて過ごす。
今日のピアノはキャラ薄めのスタインウェイくん。
薄インウェイくんと呼ぼう。
さいたま芸術劇場の音楽ホールのベルはシンセみたいな電子音の跳躍。
[前半]
いざ開演。王子の登場だ。
9日と同じく、のっしのっしと一歩一歩を踏みしめ、ピアノまで歩いてくる。
背もたれ付きの椅子によっこいせと座り込むと、
例のごとく顔やら袖やらを一通りいじくりまわして、
そして、弾き始める。
前半の曲目。
・シューベルト 3つのピアノ曲(即興曲集)D946
第1曲 アレグロ・アッサイ
第2曲 アレグレット
第3曲 アレグロ
前半の曲目は9日と同じだ。
9日は出だしが奇妙なことになっていたが、
今日は最初から王子の空間が出来上がっていた。
特に、第2曲が良かった。中高音部のなんと美しいことか。
まじりけの無い明るい緑色。なんてみずみずしいんだ。
第2曲があまりにも良かったので第3曲をほとんど覚えていないくらいだ。
[休憩]
3分ほどじっと席で待っていると、調律師さんが出てきた。
中高音の一部を直している。
すぐに終わったので、それを見届けてからホールの外に出る。
用を足して席に戻り、なんとなく周囲を見渡してみたら
9日に自分の前に座っていた人が、今日も近くの席にいるのを発見した。
きっと王子のファンの人なのだろう。
[後半]
後半の曲目。
・ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第17番 ニ短調 作品31-2「テンペスト」
・ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57「熱情」
今日のお目当てはテンペスト。このために来たようなもの。
昨年、王子の素晴らしいテンペストを聴いてから、
他のテンペストを聴きたくなくなってしまい
1年間全くテンペストを聴くことなく、今日を迎えた。
割とさらっと始まる。
水彩の点描のようなスタイルは健在。
薄インウェイくんがクリアな声色なので、
昨年のコスギ・ベーゼンくんの時とは大分印象が違う。
王子のスタイルには色味の濃いピアノの方が合っている気がする。
今回は王子のキャラクターよりも、ベートーヴェンのキャラの方が前面に出ていたように感じた。
テンペスト…いい曲だよね…内容はよくわかんないけど…いい曲だよね…
テンペストのことばかり考えており、大分満足した気持ちになっていたが
次に音が鳴り出し、いつもCDで聞いている熱情をライブで聴くことができる幸せに気がつく。
鬼気迫る演奏、ガツガツしている。テンペストの美しさと対照的。
あんなに歩くのも大変そうなのに、どうしてこんな轟音を鳴らすことが出来るのだろうか。
あのヘンテコな脱力フォームのおかげなのか。
テンポは遅めではあるが、濁流のような勢いを感じた。
9日と同じく、拍手に応えて3回程ステージに出てきてくれるが
下手の扉の前で首だけのお辞儀をして去っていく。
本当に体は大丈夫なのだろうか。
[閉演後]
アンケート用紙にペグシル(クリップのついた小さな鉛筆のような筆記具)がついていたので頂いて帰る。
こういうところもリリスホールに似ている。地方のホールはそういうものなのだろうか。
個人的には、東京公演よりも今日の方がよかったな。